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![]() バイリンガルとダブルリミテッド (前) こんにちは。キーウィです。 現在、小学校高学年から始まる英語の授業を、小学校三年生に前倒ししてはどうかという議論が続いています。 推進派の主張は、子供は耳の感度がよいので、日本人には区別が難しいとされる L と R の発音を聴き分けて身に付けることができる、とか、ネイティブ特有の言語感覚は英語で考える能力と密接な関係があるため、自我の形成に合わせて語学学習を進めるほうがよい、というものです。 ![]() そして、早期英語教育に熱心な父兄に、なぜ子供に 「ネイティブ並みの英語」 を身につけさせたいのか尋ねると、たいてい、将来海外で活躍させたい、通訳や翻訳の仕事に就かせたいという答えが返ってくるそうです。 しかし皮肉なことに、現役の通訳者や翻訳者など 「英語でご飯を食べている人」 を対象にしたアンケートでは、 「小学校から英語教育を行う必要はない」 という回答が大多数なのです。 この背景にあるのは、英語のプロたち自身の学習体験に加えて、幼児から成人まで年齢を問わず無数の英語学習者を見てきたことで得た肌感覚でしょう。 そもそも子供の口がどんなにペラペラ回ったって、これで一生英語には困らないなんてことはあり得ません。これは日本語で考えれば明らかで、幼児でも話すことはできるものの、ビジネスで通用する文章を書いたり、新聞や専門書を読みこなしたりできるようになるには、成人するまで、いえ、それからも勉強が必要です。 子供が英語の音を真似ることについては、英語教室を主宰している知人から興味深い話を聞きました。知人はいわゆるバイリンガルなので、父兄の希望もあって教室では英語だけを使っていたそうです。 その生徒の中に、まさにネイティブ並みの発音を身に付けた小学生がいました。それが何かの都合で1年か2年レッスンに来られなくなり、その間、その子がせっかく身に付けたきれいな発音を維持させようと、お母さんはいろいろ努力したようです。 ![]() ところが、その子が久しぶりに教室にやってきたときには、その発音はすっかり日本式になっていて、知人は思わず、 “Are you……YOU?” (ほんとに君なの?) と聞いてしまったとか。 こういう例は少なくなく、レッスンを継続している子でも、9~10歳くらいになると、それまでできていた真似が突然できなくなるそうです。 この事実は、冒頭で挙げた 「自我の形成に合わせて子供の頃から語学学習を進める必要がある」 という専門家の意見と真っ向から対立するものです。 発達心理学によると、通常の子供はこの時期に 「自分の視点と相手の視点を2方向的、相互的に捉える力が獲得されると同時に、自分の中に他者の視点が取り込まれ、自分自身の行動や態度を客観的に認識することができるようになってくる」 (田中「自己客観視」 自分や相手についての多価的理解) と言われています。 つまり、この例で言うと、子供は 「自我の形成に合わせて単純な音真似ができなくなり」 、早い時期に英語学習を始めても、この変化を免れることはできないことになります。(バイリンガルとダブルリミテッド (後) に続きます) |
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