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![]() 綺麗な女性と美しい女性 こんにちは。キーウィです。 19世紀後半の英国を舞台にした ”Lady Audley’ s Secret” というミステリーの原著を読んでいます。邦訳出版されていませんが、英米では過去に3回映画化され、近年になってテレビドラマにもなった名作です。 ある貴族の豪邸で男性が謎の失踪を遂げ、当主の甥で、失踪した男性の親友でもある主人公がその謎を探るうち、その貴族家に関わる恐ろしい秘密に気付くというストーリーで、物語には20代の美しい女性が3人登場して華を添えます。以下は3人目の女性に初めて出会う場面での主人公の独白です。 Alicia is pretty. Lucy is lovely. But Clara is beautiful. もしこの作品の本邦初翻訳を依頼されたら、この部分をどう訳しますか? 今回考えたいのは女性の美しさに関する英語表現についてです。 ![]() 最初の pretty に関しては反射的に 「かわいい」 を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし正確には 「綺麗」 ですね。綺麗な人だね、とか、綺麗なお姉さん、と言うときが pretty です。 pretty は大柄な女性に対しては使いませんので、その意味では 「かわいらしい」 という要素も若干含まれます。しかし日本語の 「かわいい」 はかなり特殊な言葉で、単純に「かわいらしい」というのとは違います。例えば中年男性がデパ地下で真剣にケーキを選んでいる姿を見た時に 「あの人かわいい」 と言うことがありますね。この 「かわいい」 の意味については改めて考えたいと思います。 話を戻すと Alicia is pretty. は 「アリシアは綺麗だ」 という意味です。このアリシアという女性は貴族の令嬢で、主人公に魅かれているのにプライドが邪魔して素直になることができません。わざとつっけんどんな対応をしたり、怒鳴り散らしたかと思うと泣きながら飛び出して行ったりして主人公を困らせます。そんなこともあって主人公はアリシアをやんちゃな妹のように見ています。 続いて lovely です。これは知性よりも情緒に訴えかける美しさとされ、日本語にするなら 「愛らしい」 「素敵な」 「楽しい」 などの心が温かくなるような感覚です。高齢の女性にも使えます。 従って Lucy is lovely. は 「ルーシーは愛らしい」 ということです。ルーシーは実際の年齢より5、6歳若く見え、笑顔がかわいらしくて子供から高齢者まで誰からも好かれる魅力の持ち主です。ごく近い身内である上に既婚者なので、主人公に恋愛感情はありません。主人公はルーシーが男性失踪の鍵を握っているのではないかと疑っています。 ![]() そして beautiful です。これは教科書通り 「美しい」 で間違いありません。辞書によっては綺麗を意味する pretty と比較して、beautiful を 「外見だけでなく内面も美しいこと」 と書いていることがありますが、実際は内面からオーラのような迫力が伝わって感動すら覚える美しさを言います。いわゆる美人の大半は pretty と表現すべきで、beautiful ではありません。 beautiful sky (抜けるような青空)、beautiful life (素晴らしい人生)という使い方が示すように、見る者の心に感動を与えるという点が重要な要素です。当然ながら pretty sky、pretty life とは言いません。 肉体の若さとは関係なく年齢とともに備わる美しさを指すこともあり、祈りを捧げるマザーテレサの横顔が美しい、という場合にも beautiful を使います。 ですから Clara is beautiful. は 「クララは本当に美しい」 です。クララは失踪した男性の妹で、厳格な父親に育てられたため古風な女性に見えますが、父親の目を盗んで主人公の元を訪れ、もし誰かが兄を殺したのなら自分が敵を討つつもりだと訴えます。そのひたむきさに圧倒された主人公の独白が Alicia is pretty. Lucy is lovely. But Clara is beautiful. (アリシアは綺麗だ。ルーシーは愛らしい。でもクララは本当に美しい) なのです。But が付いているのは pretty な女性や lovely な女性は他にいるけれどもクララは全く違う、本当に美しい女性だということで、このことからも beautiful が美しさに関する形容詞として別格であることが分かります。 |
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