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![]() コンピューターゲームは悪くない? ~逆の因果関係とは~ こんにちは。キーウィです。 出産する際、母親に羊水塞栓症という病気が発生することがあります。これは、羊水や、その中に存在する胎児のうぶ毛、髪の毛、皮膚の細胞、胎便、胎児の皮膚に付着しているクリームのような脂などの成分が、母親の血液に入り込んで詰まらせ、呼吸困難や急激な血圧低下などを招くものです。 ![]() 出産 2万〜3万回に1例くらいしか起きない非常に珍しい病気ではありますが、いったん起きると死亡率が 60%〜80%に上ります。原因はまだ解明されていません。帝王切開で出産した妊婦さんのほうが羊水塞栓症の発症率が高かったことから、帝王切開をすると羊水塞栓症が起きやすくなるという説もあります。 先日、この羊水塞栓症に関する論文を翻訳したときに、「逆の因果関係 reverse causality」 という言葉が出てきました。 「逆の因果関係」 とは要するに、原因と結果を逆に解釈するという意味です。例えば 「コンピューターゲームで遊ぶと、自然な人間関係を築けなくなる」 と主張する人がいますね。さまざまな研究から、ゲームで遊ぶ時間の長い子供には対人関係の苦手な子が目立つことがわかりました。ゲーム悪玉説はこれを根拠にしています。 しかし研究結果が示しているのは、ゲームで長時間遊ぶ子供は対人関係が苦手な場合が多い、ということだけです。因果関係、すなわち、どちらが原因でどちらが結果かはわかりません。もともと大勢の友達と遊ぶのが苦手な子供が一人で遊べるゲームをしている可能性だってあるわけです。 ![]() 冒頭の羊水塞栓症も同様です。近年になって、帝王切開と羊水塞栓症の因果関係が逆で、帝王切開は結果に過ぎないのではないかと指摘されるようになりました。 通常の出産の最中に羊水塞栓症が発生したために、緊急帝王切開に切り替えて母親と胎児を守ろうとした例が多かったようだ、というのです。もし、この指摘が正しければ、羊水塞栓症の予防に関する考え方を根本的に変えなければならなくなります。 Aという現象と Bという現象が同時に起きていても、どちらが原因でどちらが結果かはわかりません。それどころか偶然という可能性もあるので注意が必要です。 |
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