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本を書く医師 Top放射線とX線はどう違うのですか




放射線とX線はどう違うのですか


 原子力発電所の事故以来、放射線に関するニュースが頻繁に流れる中で、「放射能漏れ」 という言い方をよく耳にします。しかし字面からわかるように、放射能というのは放射する能力のことなので、放射能漏れ、と言うと、放射する能力が漏れたことになってしまいます。

 実際、放射能と放射線は別物です。放射能は文字通り 「放射線を出す能力」 のことで単位はベクレル。放射線そのものは、人体に及ぶ影響の大きさを表すシーベルトという単位を使います。

 放射線を初めて報告したのはレントゲン写真として今も名前が残るレントゲン博士で、放射能を発見したのが測定単位に名前が残るベクレル博士です。ともに19世紀末のことでした。

 そして両博士が発見したものをそれぞれ放射線、放射能と名付けたのが、有名なキュリー夫人です。最近はあまり使われませんが、レントゲン、キュリー、という単位もあります。
      
 21世紀の今になって 「放射能漏れ」 という、おかしな言い方になっているのは、その後、一部の専門家が放射能を持つ物質 (放射性物質) のことを、略して放射能と言っていたのが一般に広まって混乱を招いたからです。

 さて、ニュースなどでは、「この地点での放射線の測定値は、胸のX線写真3枚分でした」 などの表現をよく使います。病院や健診のX線写真はほとんどの人が何度も撮ったことがあるでしょうから、こう聞くと何となく安全な気がするものです。

 でも、原発事故で問題になっている放射線は、X線と同じものなのでしょうか。そもそもX線のXってどういう意味でしょう。

 1895年、さきほど登場したレントゲン博士が、写真の乾板 (今でいうフィルム) を感光させる性質を持つ 「目に見えない光」 を発見し、当時は正体が分からなかったので、謎の、という意味でX (エックス) 線と命名しました。

 このX線を人間の体に当てると、骨や筋肉などに当たってさまざまな程度に弱まります。この性質を利用して、体の内部構造をフィルムに写すのがX線写真の原理です。後になって、X線は初めて発見された放射線だったことがわかりましたが、おそらくは博士に敬意を払う意味で、名前を付け直すことはせず、現在もX線と呼んでいます。

 X線の発見の3年後、1898年にキュリー夫妻が放射線を出す物質、ラジウムを発見しました。同じ放射線でも、ラジウムが出すのはガンマ線といってX線とは違います。両者は似ている部分もありますが、根本的に違うのは発生の仕方です。

 病院や、健診のレントゲン車の中にあるX線撮影装置には放射性物質が入っているわけではありません。撮影装置自体は全く危険のない、ただの機械です。では放射線であるX線はどこから出ているのでしょうか。
        
 近年は最新式の機械が次々に登場していますが、基本的には、真空のガラス管の中で人工的に高速の電子を金属にぶつけることで、瞬間的にX線を発生させています。X線が発生して患者さんの体を通り抜けるほんの一瞬の間に写真を撮影するわけです。

 その一方、ガンマ線を含めて、原発事故で問題になっている放射線は、放射性物質から出ています。放射性物質は岩石のような物質で、例えば爆発や事故があれば細かい塵のようになってまき散らされます。これが 「放射能漏れ」 の正体です。

 この塵を吸い込んだり、飲み込んだりすると、この物質が体から出ていくまで、または何年、時には何十年もかけて崩壊 (分解) して放射能を失うまで、体内で放射線を出し続けることになります。

 このように、病院で使うX線と原発事故の放射線は、同じ放射線の仲間でも人体に影響を与える形が全く違います。ですから原発事故で発生した放射線の測定値をX線写真何枚分、と表現するのは科学的に見て完全な間違いなのです。




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       医師兼著者、医学翻訳者によるオリジナル記事を掲載しています。
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