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Copyright (C) 2011 本を書く医師キーウィ事務所 All Rights Reserved. 漢方薬は甘くない その6 インスタント漢方薬の時代 昔は、漢方薬といえば煎じて飲むのが普通でした。できれば土瓶、なければ鍋に約 600 mlの水と刻んだ漢方薬を1日分入れて、蓋をせずに約半量になるまで弱火で約 40分コトコト煮ます。これが煎じ薬で、適度に冷ましたものを 3回に分けて服用します。 この他に乾燥させた生薬を粉砕した散剤や、これを丸めた丸剤もありました。同じ生薬を同量使って比較すると、煎じ薬、散剤、丸剤の順で効果が下がりますが、長時間加熱すると揮発するような有効成分が含まれている場合は煎じ薬にせずに散剤にして、ぬるま湯で飲みます。生薬を砕いただけなので、湯に溶けることはありません。 当帰芍薬散や五苓散など 「散」 の字がつく製剤はその名の通り、昔から散剤で使用されてきました。丸剤は散剤を蜂蜜などで固めたもので、体の中でゆっくり吸収され、作用が長続きします。「丸」 の字がつく製剤には八味地黄丸や桂枝茯苓丸などがありますね。 そして本来の煎じ薬で使うものの代表が葛根湯、小柴胡湯など、最後に 「湯」 がつく漢方薬です。ただし、「湯」 「散」 「丸」 が名前につかない製剤もたくさんあります。 この昔ながらの飲み方が、製薬会社が工場で大量生産するエキス剤の登場によって大きく変わりました。刻んだ生薬を大きな釜で煮るところまでは煎じ薬と同じですが、できあがった薬液を濃縮乾燥させて粉末あるいは顆粒状にしたものをエキス剤と呼びます。ちょうどインスタントコーヒーのイメージです。 近年の漢方薬の普及はエキス剤のおかげと言えるでしょう。自分で煎じる必要がありませんし、製造過程で濃縮されているので服用量が少しですみ、持ち運びにも便利です。粉末や錠剤の形に加工するのも簡単ですから、消費者は自分にとって飲みやすい製品を選べるようになりました。 もう1つの利点は成分が均一だということです。生薬をそのまま使う伝統的な漢方薬は生薬の状態や煎じ方によって効果にばらつきがありましたが、エキス剤は成分を均一にできるので、これを用いて科学的な研究が活発に行われるようになりました。現在、保険が適用される医療用漢方製剤はほぼすべてエキス剤から作った粉末か錠剤です。 しかし問題もあります。煎じ薬をレギュラーコーヒー、エキス剤をインスタントコーヒーに置き換えて考えるとわかりますが、どうしても全く同じとはいきません。エキス剤に加工する過程で失われやすい成分があるので、効果の点では昔ながらの煎じ薬にはかなわないと主張する専門家もいます。 そしてもう一つ。以前も書いたように日本で販売されている漢方薬には医療用製剤と一般用製剤があり、医療用は原料生薬から抽出したエキスをそのまま、つまり濃度 100%で用います。これに対して市販の一般用製剤は、副作用を起こしにくくするために、エキスを 50%以上含んでいればよいことになっています。 ところが実際に調べたところ、エキスを 15~30%しか使っていない製品がいくつも見つかりました。元になるエキス剤の使用量をごまかして、実際の表示より濃度の低い製品を販売して収益を上げていたのです。これはもちろん違法で、厚労省の指導が入りました。 まあ、急性の症状や軽い疾患に対して使うのであれば、エキス剤だろうが多少濃度が低かろうが、それなりの効果はあるでしょう。しかし糖尿病などの慢性疾患や、癌に代表される重い疾患の治療に使う場合は慎重の上にも慎重に製剤を選ぶ必要があります。 |
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