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本を書く医師 Top過敏性腸症候群を根治できる日は来るか




過敏性腸症候群を根治できる日は来るか


 いざ出かけようとすると何度もトイレに行きたくなる。通勤電車の中で急におなかが痛くなって途中の駅で降りてしまった。試験やプレゼンの前など緊張が続くとお通じが止まってしまう。誰でも一度や二度は似たような経験があるでしょう。

 でもこんな症状が長期間続き、トイレの心配が頭を離れないとなると、過敏性腸症候群の疑いが出てきます。過敏性腸症候群は、大腸に病気がないのに腹痛ないし腹部の不快感を伴う便秘や下痢がしょっちゅう起きる状態のこと。日常生活を送れないほど重症化することもあります。
              
 発症年齢は20~40代が中心で、日本を含む先進国では約5~6人に1人が悩んでいると言われています。症状によって便秘型、下痢型、便秘と下痢を繰り返す交替型の3型があり、以前はここに腹部膨満感や排ガスが多いガス型を加えた4つに分類していました。

 しかしいずれの型も本質は腸の動きがおかしくなる蠕動(ぜんどう)異常で、排便すると楽になる傾向が見られます。蠕動異常の原因は完全には解明されていないものの、ストレスや不規則な生活がよくないことはわかっています。過敏性腸症候群の症状がストレスになって悪循環に陥る人も少なくありません。

 まずは内科か胃腸科、消化器内科を受診してください。大腸に病気がないことを確かめた上で、症状に合わせて整腸剤や、ガスによる膨満感を緩和する薬剤を使います。脳が感じた不安やストレスが腸に影響するのを防ぐ新しい薬剤も開発されています。

 それと同時に自分でも野菜や芋、豆、海藻、果物などに含まれる食物繊維をしっかり摂取してください。便秘型の人はもちろん、下痢型の人もです。それは、過敏性腸症候群の根本に腸内環境の乱れがあり、食物繊維はいわゆる善玉菌を増やしてくれるからです。
     
 大腸には500種以上の菌が合計100兆個生息し、これを総称して腸内細菌叢 (腸内フローラ) と呼んでいます。この細菌叢のバランスが崩れて悪玉菌が増え、もともと腸内細菌が少ない小腸でも増殖するようになると、メタンを始めとするガスが発生して腹痛や腹部の不快感が起きることがわかりました。

 この発見に基づいて善玉菌を人工的に培養したヨーグルトなどのプロバイオティクス製品が販売されています。ただ善玉菌には個人差があり、誰にでも有効な善玉菌は存在しません。やはり食事を通じて腸内環境を整えるのが確実です。

 現在開発が進められているのは、増殖した悪玉菌を抗生物質で殺して腸内環境を改善する治療法です。ある種の抗生物質を過敏性腸症候群の患者さんに大量に投与したところ、2ヵ月後に症状が改善したという報告が有名な医学雑誌に掲載されました。

 また腸内細菌叢を移植する治療法もあります。健康な他人の便を生理食塩水に溶かして、上澄み部分を患者の大腸内に散布します。ちょっとびっくりですね。ただこちらも安全性、有効性については詳しい研究が必要です。