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本を書く医師 Top注射の心理学




注射の心理学


 インフルエンザの予防接種のシーズンです。「痛くないように打ってほしいなあ」 これに似たセリフは健康診断の採血の場でも聞かれます。「昨日から憂鬱でさあ…頼むから何べんも刺すのはやめてよね」

 その気持ちわかります。でも最近の注射は昔とは比べものにならないほど痛くなくなっているんですよ。

 痛みを減らすための工夫は昔から行われてきました。肘の内側の静脈から採血するのは、この部分の静脈が外から見やすいのに加えて、皮膚が柔らかくて痛みを感じにくいからです。
                 
 また採取する血液の量はごくわずかです。針を刺したまま何本もチューブを取り替えるのでたくさん採っているように見えるかもしれませんが、一般的な定期健康診断であれば合計10~15ml、コーヒースプーン2杯分くらいしか採取していません。

 注射や予防接種で薬液を注入する場合も同様です。ゆっくり入れるほうが痛みが少ないので打つときは多少時間をかけますが、たくさん入れているわけではありません。例えばインフルエンザワクチンなら投与量は 0.5mlなので、コーヒースプーン1杯のたった10分の1です。

 注射の痛みを減らすための戦いは 「痛点」 との戦いです。痛点とは皮膚の表面で痛みを感じる神経のことで、1895年、ドイツの生理学者フォン・フレーが発見しました。

 フレーが行ったのは先を尖らせた馬の尻尾の毛で皮膚をつつく実験です。すると痛みを感じる箇所と、触った感覚がするだけで痛くない箇所があることが分かり、痛む箇所を痛点と名付けました。

 痛点は1平方センチメートルあたり平均100~200個も存在しますが、この痛点を避けて注射針を刺すことができれば痛みを感じないはずです。最近は注射針が細くなったことで、昔に比べると刺激してしまう痛点の数がかなり減りました。痛いというよりは 「鈍い痛みを感じる程度」 になったとされています。

 しかし技術がどんなに進歩しても越えられない壁があります。子供時代の記憶です。大人に比べると子供は皮膚の表面積が小さく、痛点の密度が高くなっています。そのため同じ針で刺しても当たる痛点の数が多く、痛みを強く感じます。このときの記憶が注射器を見るたびによみがえる人がかなりいるのです。
       
 こういう人は実際の痛みが脳の中で何倍にも増強され、強い痛みを受けたように感じると言われています。解決策は、注射を受ける時に意識的に現実の痛みに集中することを繰り返し、過去の記憶を過去のものにしてしまうことです。

 心理状態が注射に及ぼす影響は他にもあります。注射や採血の際に倒れる 「貧血」 です。目の前が暗くなって座り込むだけでなく、吐き気や頭痛が起きることもありますが、採血のせいで血が薄くなって貧血になるわけではありません。

 この時起きているのは血管迷走神経反射 (けっかんめいそうしんけいはんしゃ) といい、不安や痛みをきっかけに迷走神経という神経の作用で血管の壁が反射的に緩み、血圧がストンと下がる現象です。

 この反射の起こりやすさには遺伝が関係しますが、注射に対する心配や恐怖心が強いと反射が起きやすいことがわかっています。こちらも訓練によってある程度反射を抑制できるようになります。