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本を書く医師 Top美しい心 ~日本人の宗教心~
                

美しい心 ~日本人の宗教心~


こんにちは。キーウィです。

 病院の待合室で雑誌を読んでいた高齢の女性が名前を呼ばれ、慌てて立ち上がって雑誌をラックに戻そうとしました。しかし雑誌がたくさんあって隙間がなく、なかなか戻すことができません。それで、「あとで入れておきますから診察にどうぞ」 と言って本を受け取ったところ、女性が 「綺麗に入れなきゃいけないと思うと上手くできなくて」 と申し訳なさそうに言いました。

 ああ、日本の心ですね。皆で読むものだから丁寧に扱おうとしていたのですね。
             
 ある新聞社が数年前に実施した調査で、何の宗教も信じていないと回答した日本人が70%以上に上り、その後実施された米国の企業による国際調査で日本人の信仰心の強さが143か国中136位だったことと合わせて話題になりました。

 実際、「俺は無宗教だから」 と断言する人がよくいますし、「それって宗教の勧誘じゃないの?」 という言い方には、宗教=うさん臭いもの、という意識が漂います。そして 「日本人はお寺も神社も行くし、クリスマスも祝っちゃうのは宗教を信じてない証拠だよ」 という説明もよく耳にします。

 実際はどうでしょうか。日本人にとってクリスマスは形を借りた商業的なイベントに過ぎません。ほとんどの人は宗教的な日ととらえていないので、だからイベントに乗れるのです。これは日本人の宗教心のあるなしとはまったく関係ないことです。

 考え方はそれぞれでしょうが、実際は日本ほど宗教心が深く染みついた国は他にないだろうと思います。

 皆で読む本は丁寧に扱う、ご飯を残すのはもったいない、だらしない恰好はみっともない、という道徳観はもちろん、掃き清めた廊下が清々しい、スマホを買ったらまず保護フィルムを貼る、コレクションしたものを整然と並べるなどの美意識はことごとく日本古来の宗教心が日常生活に浸透して形を変えたものでしょう。

 もっと分かりやすい例は、拾ったお金を黙って懐に入れたら後で悪いことが起きるんじゃないかと恐れたり、生存の可能性はなくてもとにかく家に帰らせてやりたいから捜索を続けて欲しいと願ったりする心です。これは神とも仏ともつかない 「おてんとうさま」 や独自の死生観の存在を抜きにして説明することはできません。
         
 日本では古代から受け継がれてきた民族的な宗教が空気のように社会全体を覆っているのです。そしてお寺であれ神社であれ教会であれ、すべて宗教心を発露する場所であるという捉え方をしているために、そのどこででも手を合わせることができるのです。

 翻って英語圏における宗教 religionの定義はこうなっています。

 1. Merriam-Webster dictionary
 The belief in a god or in a group of gods, or an organized system of beliefs, ceremonies, and rules used to worship a god or a group of gods.
 「一柱もしくは複数の神を信じること。もしくはその神を崇める信念、またはそのために用いる儀式、規則」

 2. Oxford advanced learner’s dictionary
 The belief in the existence of a god or gods, and the activities that are connected with the worship of them.
 「一柱もしくは複数の神を信じること。もしくはその神を崇めることに関連する活動」

 このように、どちらの辞書も神を信じて崇めることを宗教と定義しており、先に挙げた日本文化における宗教心と比べると意味が限定的です。

 現代では 「宗教」 という言葉を聞くと、この西洋式の定義に該当するキリスト教やイスラム教を連想する人が多いので、「宗教を信じていますか」 と質問されると、反射的に 「いや、自分は無宗教だよ」 と答えてしまうのだと思います。ですから宗教心について正確に調査しようと思うなら、調査で使う用語自体を慎重に選ぶところから始める必要があるでしょう。
     
 夏になると耳にするのが 「無宗教の追悼施設」 という言葉です。しかし本当に無宗教なら死者の追悼などしませんから、無宗教の追悼施設なんてものはあり得ません。まあ、それ以前に、日本人から宗教心を奪うこと自体不可能でしょうけれど。