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本を書く医師 Top字幕翻訳に息づく伝統
                

字幕翻訳に息づく伝統



こんにちは。キーウィです。

 映画は字幕で観ますか、吹き替えで観ますか。先日、短い英語の動画を日本語に翻訳して字幕を付ける作業をしました。これまでにも医療関係のDVDの字幕翻訳や吹き替え翻訳の仕事をしたことはありますが、動画を編集して字幕まで自分で付けたのは初めてです。

 吹き替えが耳で聞くのに対し字幕は目で見ますから、映画専門家の中にも、特に複雑なストーリーや硬派の作品は吹き替え版で観た方がよいと言う人がいます。字幕だと脳と目の情報処理が追いつかず、原作を十分に楽しめない恐れがあるからですね。また日本の声優さんの技量が世界的に見ても非常に優れていることも理由の一つです。
              
 そうはいっても好きな俳優さんの声や息遣いを聞いたり、名優の繊細な言語表現に酔いしれたりできるのは字幕ならでは。熱心なファンを満足させるために字幕翻訳者が懸命に技巧を凝らします。

 字幕翻訳の最大の制約は字数制限です。昨今の画面比16:9では1行に最大20文字ですが、観ている人が俳優の演技や背景に注意を向けながら文字を読めるのは1秒間に4文字まで。ですから20文字いっぱい書いてしまうと1枚の字幕を5秒以上表示する必要があります。

 とはいえこれはあくまでも原則です。映画の冒頭部分はすべてが新情報であるのに対して、物語が進むにつれて見る人の理解が深まりますから、同じ長さの字幕を短い時間で読めるようになります。また挨拶などの単純な場面と、入り組んだ状況を説明する場面でも理解の速度は変わります。

 今回私が作業したのは講演の動画で、論理的に一直線に話が進むので比較的理解しやすいと思います。でも論理的な分、一文の情報量が多く、限られた文字数でどう表現するかが悩みどころ。字幕ではどんなに工夫しても情報量が吹き替えの3分の1になると言われているため、まずは絶対に必要な情報とそうでないものをふるいにかけます。

 例えばこんな文章。
 「ベッドに横にならせたとき、娘の顔が青白くなっているのに気がついたので……」
      
 ここで重要なのは 「寝させた」 「顔色が悪かった」 ということです。寝るのですからベッドは当たり前ですし、これが娘の話であることは前後関係から推測できるでしょう。そう考えると 「寝させると顔色が悪かったので……」 でよさそうです。

 ぎりぎりまで内容を削る一方で、文字で伝える字幕ならではの強みを生かすこともできます。視覚に訴えるんですね。漢字は表意文字なので直感的に意味がわかります。吹き替えなら 「あー、もうおなかいっぱいで入らないよ」 とするところを、「満腹で無理」 とすっきり表現できます。

 字数を減らし読みやすくするために生まれた独特の表記法もあります。映画の字幕には句読点がありません。代わりに半角または全角スペースを使います。また、このスペースをひらがなや漢字が続く箇所に入れると読みやすくなります。下の文はどこにスペースが入っているかわかりますか。

「咳ばかりして つらそうだったからね」

 以前書いたように昔の日本語は句読点を使いませんでした。文字の大きさを変えたりスペースを開けたりして表現し、漢字、ひらがな、かたかなを組み合わせて表情やリズムを生んでいました。
       
 字幕も同様で、文字のフォントにも工夫が見られます。映画の字幕は古風な手書き風のフォントを使っています。濁点を強調したり難しい字を簡略化したりして読みやすさを究極まで高めたもので、今世紀の始めまで職人さんが一枚一枚手で書いていました。この職人さんの字を基に作られたのが 「シネキャプション」 というフォントです 。(写真)。