「本を書く医師」が医学情報をわかりやすく伝えます



 超訳 養生訓へのリンク
現代に生きる養生哲学書 健康が幸福の基盤になる


 日本人の「遺伝子」へのリンク
病気の遺伝子を封じ込め 健康な遺伝子を作るには


 日本人の病気と食の歴史へのリンク
健康長寿を目指し続けた 日本人1万年の集合知


 胃腸を最速で強くするへのリンク
めくるめく消化管の世界 胃腸を知って健康に!


 長寿の習慣へのリンク
健康長寿は自分で作る  百活は「4つの習慣」から


 内臓脂肪を最速で落とすへのリンク
おなかの脂肪は落とせる!結果の出る減量法


 日本人の健康法へのリンク
もう騙されない!    健康情報の見分けかた


 日本人の体質へのリンク
Amazon本総合1位!  日本人のための健康法は



本を書く医師 Topそれってほんとに羊?
                

それってほんとに羊?


こんにちは。キーウィです。

 未年となると年賀状には羊のイラストがあふれます。もこもこした白い羊で、顔と手足だけ黒いこともあり、泣き声はメエー。ところが、この記事で使うイラストを米国のウェブサイトで探していて不思議なことに気づきました。十二支は中国大陸とその文化の影響を受けた国々に伝わる慣習なので、当然米国には存在せず、東洋文化を紹介する形で登場するくらいです。
                 
 それが、私が調べた範囲では、米国では90%以上の確率でヤギの絵が描いてあり、英語ではyear of the goat。sheepではありません。羊らしい絵は、このすぐ下に載せたイラストだけでした。そもそも「羊」という漢字自体、上向きに角がはえた頭の形をもとにしているのですから、今でいうヤギです。
     
 そこで中国の畜産に関する資料にあたると、中国で実際に育成されている羊も蒙古羊、西蔵羊、カザフ羊の3品種がほとんどで、もこもこした毛羊はほとんどいません。蒙古はモンゴル、西蔵はチベットのことで、この名前からわかるように遊牧民の人たちが草を食べさせながら移動する家畜です。

 画像を見ると、蒙古羊は太っていて大きく巻いた角があり、西蔵羊は毛の長いヤギ、カザフ羊は牛のような体格のヤギという印象でした。おそらく古い書物や掛け軸には、羊と称して、これらのヤギに似た絵が描かれており、それを見た欧米人が、未年をヤギ年、英語でyear of the goatと考えたのでしょう。
               
 これに関連して思い出すのは、大学院で一緒だった中国人留学生から聞いた話です。彼女によると、羊は猛烈に気が荒いので、中国では未年の女性はなかなか結婚できません。だから親は無理してでもその前年の午年の間に出産しようとすると言うのです。おそらくこれが伝わったのでしょう、日本でも昔は「未年の女は男を七人半喰い殺す」などと言ったようです。

 この「気が荒い」という話もヤギ説の証拠と言えます。羊もヤギも偶蹄目ウシ科の動物ですが、ヤギはヤギ属、羊はヒツジ属と種が違い、染色体の数が違うので偶発的な例を除いて交配できません。つまり掛け合わせても子供ができないのです。
                    
 そして性格も全く異なり、もこもこした毛羊が見た目通りおとなしく引っ込み思案なのに対して、ヤギは活発で賢く攻撃的と言われます。角があろうがなかろうが突進して頭突きするので、特に発情期になると専門家でも危険なくらいだそうです。あと欧州の小説によく出てくるのは「ヤギは頑固」という表現ですね。

 そしてご存知のようにキリスト教では、羊は善、ヤギは悪の象徴です。キリスト教が成立した時代の遊牧民の人たちも荒くれヤギには手を焼いていたのでしょう。また、この背景には、ヤギが草は根こそぎ、樹木も皮や根まで食べてしまうので、野生化すると乾燥地帯を不毛の砂漠にしてしまうこともあると言われています。
    
 以上のことから、古代の十二支に登場する羊は現代で言うヤギ、もしくは限りなくヤギに近い羊だったと思われます。

 ところが奇妙なことに、この記事を書くために調べたところ、最近の中国では未年の出産を避ける理由として「羊は弱いイメージなので未年の人間は人の上に立てない」と説明していることがわかりました。簡体字で書かれた現代中国のサイトにも、日本と同じもこもこした白い羊のイラストが描かれています。
             
 古来のヤギはどこに行ってしまったのでしょうか。おそらくは中国でもテレビなどを通じて欧州の毛羊のイメージが急速に浸透する中で、本来ヤギだった未年の意味が変化してきたのではないでしょうか。日本と違って社会主義国家なので、政府の方針が国民の考え方や慣習に与える影響も無視できないでしょうしね。