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危険です、低炭水化物ダイエット


 炭水化物の摂取を大きく減らして痩せる、というダイエット法がアメリカで話題になり、日本でも何冊も本が出て人気を集めました。カロリーの総摂取量を減らせばやせるのは当たり前ですが、特に炭水化物を減らした場合、体の中では何が起きるのでしょうか。

 世界のどこでも、ごく一部の例外を除いて、主食は、ごはん、パン、とうもろこし、豆類など炭水化物です。炭水化物は、人間にとって主要なエネルギー源であるブドウ糖が長くつながってできているからです。
            
 これだけ重要な栄養源なので、この炭水化物を食べられない状態になったとしても、当分の間は生きていけるように人間の体には備蓄があります。

 ブドウ糖そのものがグリコーゲンの形で肝臓と筋肉に貯蔵されていますし、筋肉を始めとする多くの臓器は、脂肪を燃やしてエネルギーを取り出すことができます。実際、皮下脂肪には、平均で1か月くらい生きられるほどのエネルギーが蓄えられています。

 しかしここで大きな問題が。生命活動にとって一番大切な脳の細胞は脂肪を燃やすことができません。普段はブドウ糖だけをエネルギー源にしており、1日あたり何と約120 gのブドウ糖を消費しています。ブドウ糖が体内に入って来なくなったら、これだけのブドウ糖をどこから調達すればいいのでしょうか。

 絶食時には、まず肝臓のグリコーゲンが分解されてブドウ糖に戻ります。これが血流に乗って脳を始めとする全身に運ばれ、脳の機能を13時間維持できるとされています。

 13時間たって肝臓のブドウ糖が枯渇すると、いよいよ生体の驚くべき作用が始まります。肝臓で、糖以外の材料から、脳のためのエネルギーを合成するのです。そのうち半分を占めるのが筋肉の中のアミノ酸で、血液の中に流れ出して肝臓でブドウ糖に作り替えられます。

 ここまできて、ようやく皮下脂肪の分解が始まります。実は脳がブドウ糖の代わりに使える代替エネルギーが1つだけあり、それが、皮下脂肪を分解して肝臓で産生されるケトン体なのです。
         
 肝臓は、脂肪を途中の段階までしか燃やすことができないため、ケトン体という物質ができます。このケトン体は、血液により脳まで運ばれ、脳の細胞がケトン体を分解してエネルギーを取り出します。またケトン体には脳の満腹中枢に作用して空腹感を無くす作用もあります。

 筋肉は、脂肪を完全に燃焼させられるのはもちろん、ケトン体を利用して運動することもできるのですが、ケトン体しか利用できない脳に、優先的にケトン体を送り届ける仕組みになっています。

 このように、生体には、エネルギー危機に見舞われても生命を維持できるだけの代替エネルギーがいくつもあります。低炭水化物ダイエットは、これを逆手に取って、皮下脂肪をケトン体に分解することで痩せようという考え方です。しかし残念ながら話はうまくいきません。

 代替エネルギー回路は一時的な非常手段なので、長く続けることはできません。脂肪だけでなく筋肉も分解され、アミノ酸としてエネルギーになります。そのため筋肉が落ちて、ちょっとした日常動作でも動悸・息切れが起きるようになります。

 また肝臓がケトン体を生成するときには、必ず酢酸という物質が一緒に生まれます。酢酸は酢を濃縮したような強い酸性物質なので全身の血液が大きく酸性に傾き、体が非常にだるくなって吐き気や嘔吐、腹痛などが起こります。

 やがてバナナが腐ったような甘酸っぱい匂い (ケトン臭) が体の外にもれるようになり、最悪の場合は昏睡状態に陥ります。「私は大丈夫」 と言う人がいますが、それは炭水化物を完全には除去していないからです。
    
 そして肝心の減量効果ですが、低炭水化物ダイエットを行ったグループと、食事の脂肪分を減らす低脂肪ダイエットを行ったグループを比較したところ、始めの半年は低炭水化物ダイエットのグループの方が順調に体重が減っていきました。

 しかし1年後には、低脂肪ダイエットのグループが追い付いて、差がなくなってしまいました。

 そして、もっと心配なことがわかりました。低炭水化物ダイエットのグループは明らかに動脈硬化が進み、長期的には死亡率が高かったのです。また、特に日本人が低炭水化物ダイエットを行うと、糖尿病の危険が高まると指摘されています。

 この背景には欧米人と日本人では糖尿病を発症する仕組みが大きく異なることがあります。これについては関連コラム「日本人の糖尿病は違います」をご覧ください。




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