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本を書く医師 Topバイリンガルとダブルリミテッド (後)
                

バイリンガルとダブルリミテッド (後)


こんにちは。キーウィです。


 (バイリンガルとダブルリミテッド (前) の続きです) 第2言語習得は母国語 (第1言語) を基盤として進みます。ですから、まず必要なのは、脳の言語中枢が形成される8歳から10歳頃に母国語の基盤をしっかり作ることです。

 人間は言語を使って思考するので、言語能力が発達しなければ思考や理解、考察する能力も育ちません。この時期は自我の確立期と重なっているため、母国語と自我、ないしアイデンティティーの間には強い結びつきがあります。

 そしてもう1つ重要なのは、母国語以上に第2言語が上達することは決してないということです。そのためバイリンガルと言われる人でも、厳密に調査すると2つの言語能力に差がある場合がほとんどです。
                 
 以上のことから、バイリンガル教育開始の前提は、母国語で年齢相応の思考ができるようになっていることです。これを無視して強引に第2言語を学ばせると、2つの言語のどちらも十分な言語能力が発達しないままになる恐れがあります。

 近年になって、おもに国際結婚や海外駐在員の家庭の子供たちに、誰とも十分な言語的コミュニケーションが取れないダブルリミテッド (double limited) という障害が発生することが明らかになり、大きな問題になっています。

 ダブルリミテッドの典型的な症状の1つに、2ヵ国語をごちゃ混ぜにして話す現象があります。私の知人でアジア系の外国人と国際結婚した人からもこんな話を聞きました。

 知人は、夫婦間の会話では、両者にとって第2言語である英語を使い、子供にはそれぞれが自分の母国語で話しかけていました。

 すると3歳になった子供が 「りんご・赤い・も」 と言い始めたそうなのです。これは 「りんごも赤い(Apples are red, too)」 と言おうとして、日本語の単語を英語の語順で並べてしまったのです。驚いてパートナーに聞くと、この子はパートナーの母国語も英語とちゃんぽんにしていることがわかりました。

 知人は子供をバイリンガルならぬトライリンガルに育てるつもりだったようですが、むしろダブルリミテッド、もしくはトリプルリミテッドにしてしまわないよう、十分注意する必要が出てきました。

 ダブルリミテッドになってしまった不幸な子供たちは、コミュニケーション障害だけでなく、自我が確立できないため精神的に不安定になったり、心や知能、理解力の発達が遅れたりするなど根深い問題に苦しむことが知られています。専門家による治療プログラムもあるものの、母国語を確立すべき時期に確立できなかったハンディを埋めるのは非常に困難です。
    
 早期英語教育ブームの背景には、手っとり早く英語を身につけたい、さらに言うと、それっぽい発音をしてみせることで 「英語が身に付いているように思われたい」 という欲求があるように思います。

 しかしビジネスの場で英語を使うには、社会人としての交渉力や表現力に加えて、堅い英語を読んで書けなくてはいけません。発音を気にするより、豊かな母国語の基盤を持った上で大人になるまで勉強を続けることのほうがずっと重要です。