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本を書く医師 Top女性は本当に地図が読めないか




女性は本当に地図が読めないか


 男性は話を聞かず、女性は地図が読めないと主張する本がベストセラーになりました。その勢いに乗って、似た内容の本が次々に出版されたほどです。

 内容はおおむね、人間の能力には性差があり、それは、男性は狩りに出て女性は家庭を守るという原始時代の役割分担が脳の進化に影響したからだ、というものです。納得できるという声が上がる一方で、いや、僕 (私) は例外みたいだという人もいて、大きな話題になりました。

 これらの本の中には、女性は地図を理解したり、車を駐車したりするなどの空間認識能力が劣るとか、男性は地図を読むのが得意で、女性は道順を思い出すのが得意、などと、具体的に分析しているものもあります。
          
 科学的にいうと、これらの主張は仮説に過ぎず、真実だと証明されているわけではありません。ひとまとめに原始時代といっても、木の実や魚を採集していた地域や、牧畜や農耕が早く始まった地域もあり、男性が遠くまで狩りに行く文化ばかりではありませんでした。

 そのため、脳に性差が仮にあるとしても、男女の役割分担だけで説明するのは無理があります。例えばキノコ狩りの様子を観察した研究があります。男女の参加者全員に心拍数のモニターをつけて、キノコ狩りに行ってもらいました。そのうえで、実際にどう移動したかをGPS (衛星測位システム) で監視します。

 すると、男女が制限時間内に集めたキノコの量は同じくらいでしたが、男性は遠くまで行ったり高い山に登ったりして集める傾向があり、エネルギーを女性の1.7倍消費していました。これに対して女性は比較的近くで効率よくキノコを採取したことが分かりました。

 この結果をみて、やはり男性は目的地までの地図がしっかり頭に入っているから遠くまで行けるんだと結論づけることはできるでしょうか。いいえ、話はそう単純ではありません。

 女性が遠くまで行かなかったのは、山で動物に襲われることを恐れ、他の人と離れないようにしたからかもしれませんし、普段からキノコを採っているので、キノコの生える場所をよく知っていた可能性もあります。

 逆に、男性が体力にまかせて遠くまで行った可能性や、女性たちにいいところを見せようと、張り切って珍しいキノコを探しにいったことも考えられます。人間の行動は、個人の複雑な思考や心理と切り離して考えることはできず、実験結果の解釈は容易ではありません。

 そもそも空間認識能力と地図を読む能力は別物です。地図を理解した上で、実際に移動する際には空間認識能力が必要ですが、抽象的な言語や図形で描かれた地図を頭の中で具体的な構造物と結びつけるには、言語能力と、言語能力が支える抽象的な思考が求められます。
       
 実際には、地図を読むのが得意な女性はいくらでもいますが、こういう本がベストセラーになるのは、「地図が読めない女性」 が目立つからでしょう。しかしその背景には、「私は女だから地図が読めなくても仕方ない (読めなくても鎌わない)」 という女性自身の思い込みがあるように思います。

 その証拠に、地図が苦手な女性も、系統立った訓練を受けることで読図能力が大きく高まることが分かっています。

 人間の脳は柔軟にできており、必要に応じて神経細胞のネットワークを構成して新たな能力を獲得したり、持っている能力を伸ばしたりできます。だからこそ環境や社会の変化に適応できるわけで、もしも脳が何百万年も前に出来あがったまま変化しないようなら、人類はとっくに滅亡していたでしょう。




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       医師兼著者、医学翻訳者によるオリジナル記事を掲載しています。
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