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本を書く医師 TopX線写真の表と裏 ~間違えるのが人間~
                

X線写真の表と裏 ~間違えるのが人間~


こんにちは。キーウィです。

 まず、こちらの写真を見てください。
        
 目玉のように見えるのが左右の腎臓、真ん中でいじけたように縦に流れているのが腹部大動脈です。人間には腎臓が2つありますが、正常であれば右の腎臓の方が少し低い位置にあるので、この写真は前からではなく背中側から見たことがわかります。右の腎臓が下がるのは真上に大きな肝臓があるからです。

 通常のX線写真では血管の形や血流の状態はわかりません。この写真は血管造影写真といって、X線が透過できない造影剤という物質を血液に入れて撮影してあります。

 さて、このX線写真がとんでもない事件の原因になることがあります。X線写真はフィルムですから、裏返しに見ることができるのです。表裏を示す印がついてはいますが、目立ちません。裏から見ると左右がまるきり逆になってしまいます。実際、少し前にも腎臓癌の手術をする際にX線写真を裏向きに見てしまい、間違って正常な方の腎臓を摘出してしまったという事件がありました。

 手術室にはX線写真が掲示してあり、これを見て確認してから手術を開始することになっています。腎臓摘出の大手術なのですから、手術室には医師や看護師を含め大勢のスタッフがいたはずです。しかし誰も気が付かなかった、少なくとも疑問の声を上げなかったのです。

 この事件では医師が 2名書類送検されました。X線写真を誤って裏向きに掲示したのが仮に他のスタッフだったとしても、医師本人が最終的な確認義務を怠ったのですから、医師が責任を免れることはできません。

 しかし問題は他にもあります。もっと大きな問題と言えるかもしれません。
          
 今も憶えていますが、学生の頃、指導教官が 「裏向きのことがあるから気を付けてね」 と軽くおっしゃったので驚いたことがあります。前述の医療事故と同様の悲劇が世界中で日常的に起きている中で、個々人の注意に任せるだけで基本的な対策を講じようとしないのが不思議でなりませんでした。

 「しっかり確認しろ」 と力説するだけでは事故を100%なくすことは絶対にできません。人間は間違えるもの (To err is human)だからです。大切なのは、万が一の時に作用するような予防策を講じておくことです。

 それは手術室での確認手順の明文化であるかもしれないし、フィルムに手を加えることであるかもしれません。例えばX線写真のフィルムの右肩を始めから三角に切っておいたらどうでしょう。これなら手間もお金もそれほどかかりません。事故を直接招いた個人にだけ目を向け続けている限り、悲劇は永久になくならないでしょう。